Anthony Giddens : The Third Way - The Renewal of Social Democracy, 1998 (第3章 要約)

Anthony Giddens : The Third Way - The Renewal of Social Democracy, 1998

アンソニー・ギデンズ, 佐和隆光訳, 第三の道 効率と公正の新たな同盟, 1999

III.  State and Civil Society

第三章 国家と市民社会(註1)

■導入: 本章の概略(P.122)
福祉制度の再構築  → 新しい混合経済体制 = 政府と市民社会の協力関係を支える経済的基盤
この章で扱うトピック(P.123の囲み)

 

■第1項: 民主主義の民主化(P.124)

国家の危機

 → 国家・政府の正統性・権威を裏付ける根拠が必要
国家危機の要因

 : グローバル市場の勃興/大規模戦争の発生可能性低下/民主化の広がり/伝統・慣習の影響力低下
民主主義の危機の由来

 : 十分に民主的でない民主主義/感受性に富む市民の出現/個人の自主性
この項で扱うトピック(P.136の囲み)

■第1項(1)中央から地方への権限委譲(P.127)
民主主義の民主化

 = 脱中央集権化(註2)→ 国家権威の再構築 → 国家の抵抗力・影響力の強化
脱中央集権化

 : 上下双方向の権限委譲

■第1項(2)公共部門の刷新(P.128)
立法の役割強化(ex.法改正)

 ← 政府の腐敗防止/透明性・開放性の確保 ← 市民による監視

■第1項(3)行政の効率化(P.130)
政府組織の非効率 → 不信 → 正統性を裏付けるものが必要 → 行政の効率化
行政の効率化 ← 目標管理・実効性ある監視・柔軟な意思決定・従業員の参加

                  ↑

             企業の行動様式を導入
                 ↓↑
市場主義の限界の認識 → 市場に対抗する役割としての政府

■第1項(4)直接民主制の導入(P.132)
政治参加の実感を伴う民主主義

 : 地域レベルでの直接民主制/電子住民投票/市民陪審員制 etc.

■第1項(5)リスクを管理する政府(P.133)
危機管理

  ↑

狭義の安全保障/経済的リスク/科学技術から生じるリスク(ex.健康/環境保全/社会福祉) etc.
  ↓
具体的選択肢の明示、科学・技術限界の明示
  ↓
専門家・政府・一般市民による制約・倫理問題の検討

■第1項(6)上下双方向の民主化(P.135)
地方分権化のメリット : 過疎都市の再活性化
地方分権化のデメリット: 自治体政府中枢部の官僚的権限の肥大化、地域格差の拡大
地方分権 ≠ 地方分裂: 上下双方向の権限委譲、上下のバランスのとれた権限委譲

■第2項: アクティブな市民社会をつくる(P.137)
旧左派:市民社会の衰退に無関心
新左派:市民社会の盛衰に関心大
この項で扱うトピック(P.138の囲み)

■第2項(1)政府と市民社会の協力関係(P.139)
協力関係

 : 政府と市民社会の相互扶助・相互監視、撤退と支援 → 高度な自己組織化能力

■第2項(2)第三セクターの活用(P.140)
小規模団体:「共通の利益を擁護するために定期的に会合する少人数の集まり」
  ↑
問題意識の共有、人生の同行、相互扶助
  意識共有キーワード: 癒し、自助、環境保護 etc.(cf.post-materialism P.44)
  参加者キーワード : 女性、中高年層<若年層、富裕層 ←→ 貧困層の不在

■第2項(3)地域主導によるコミュニティーの再生(P.143)
地域主導による地域経済振興 → コミュニティー再生 → 貧困層における市民的秩序の回復
政府の役割 : 社会事業への助成、教育事業などの許認可・監督

■第2項(4)地域の公的領域の保全(P.147)
ハード・ソフト両面における公的領域(public sphere)への配慮 → コミュニティーの発展と民主化
ハードの公的領域 = 社交の場、家族(cf.第4項)以外に日常的な人の絆をつくる場
  ex.街路、広場、公園、レストラン、カフェ etc.
健全な市民社会 → 個人保護 → 人権 VS 国家権力 → 固有の問題と緊張関係の発生
  ex.監視権限の設定(cf.第3項)、各共同体の将来像の衝突、共同体間の隔壁設定、利害対立からの個人保護

■第3項: 犯罪とコミュニティー(P.149)
公共領域における安心感の確保 ← 礼儀正しさ(註3)
× 犯罪摘発 → 警察権力の強化(註4) → 不審者一掃
○ 犯罪予防 → 警察と市民の緊密な協力 → 教育・説得・カウンセリング → モラル・品行の向上
              ↑

政府諸機関・刑事司法制度・地域の諸団体・コミュニティー組織・各種経済団体・少数民族団体などの協力関係

■第4項: 民主的家族 ー 伝統的家族の崩壊(P.154)
新自由主義の家族政策    (cf. P.155 L.7 〜 P.156 L.5)
旧式の社会民主主義の家族政策(cf. P.156 L.6 〜 L.11)
第三の道の家族政策     「家族のルールとは、民主主義である」(cf. P.164の囲み)
家族の民主化と社会の民主化を支える価値規範の近似
  形式的平等、個人の権利、自由闊達な議論、協議に基づく権威、

  相互尊重、自主性、合議に基づく意思決定、暴力からの自由
家族の価値規範の再構築 ← 自主と責任の調和、柔軟性と順応性 ← 政府による奨励策と制裁措置の整備
家族政策における最優先課題: 男女間の育児責任分担の見直し
  ex.養育と婚姻の制度的分断、父母における同等の権利と義務の再確認、男女の共同養育
社会的に統合された家族

 : 親子間における双方向の義務の再確認 → 家族の結束 → 市民的結束、社会的連帯

(註1)佐和は何故 "State" を「国家」と訳したか : EU諸国を、自治機能を備えた地方機関として捉える(cf.subsidiarity, P.128)。グローバリズムにさらされている多階層の States らは「国家」に限らない(cf.米CA州 P.134, 伯セアラ州 P144)。
(註2)"脱"中央集権化であって、"反"中央集権化や"非"中央集権化ではないことに注意。
(註3)礼儀というと日本人は伝統・慣習・宗教などを連想しやすいが、おそらく次元の違う内容を指している。
(註4)監視権限の強化と人権のバランス : 人は危険や危機を感じると過剰な管理・監視をも受け入れてしまう。そういった市民感情を悪用して弱みに付け込もうとする権力を監視・抑制する方法はあるのか?

 

2009-04-30 ゼミ輪読(倉阪秀史 先生)