この映像を見て最も気にかかったのは、実際に私の目に入ってくる社会現象と随分異なっているという点である。およそ20年前に私が毎日上野公園で見ていた大勢のホームレスらを思い起こしてみると、現在のほうが明らかに少ない。というよりも、ホームレスがいない。駅にも地下道にも閉店後の店舗のシャッターの前にも。東京都の公式 WEBサイトは「都の救援施策が成功した」とまとめている。しかし、おそらくそうではない。
東京都発行『東京23区のホームレスの推移』を見ると、近年、たしかに都内のホームレス人口は減っている。しかし、同じ資料に載っていた別のデータによれば、国管理河川に棲むホームレス人口は増えている。
ホームレスらは、おそらく生活の知恵を得て、国が管理している土地に張り付いていれば容易に退去させられることはないということに気づいたのであろう。そしてそうなったのはなぜかと考えてみれば、都が、都の管理地からホームレスを追い出したからではないか、と想像できる。
私は、都が発行した一冊の資料の中の、それぞれ別の箇所に書かれていたデータを見比べただけである。都は、この程度の分析もできず、この程度の推測も立てられず、「都の救援施策が成功した」というのか。
それとも、データを見て、すべてわかっていて、しかし追い出したことには言及しないということなのか。
2009-05-01 現代社会思想(三宅芳夫 先生)