学校や職場の検査などでよく使われる仮性同色表(石原表・東京医大式など)を1種類だけ使って検査しただけで、色覚異常であるという確定診断を下されることはありません。もしそんなことがあったとしたら、そのお医者さんは色覚についてあまりご存知でないのでしょう(仮性同色表の詳しい説明については、また後日)。
正確に色覚異常かどうかを診断するためには、1種類の仮性同色表だけでなく、数種類のさまざまな検査をし、その結果を総合しなければなりません。そういった総合的な検査・診断ができるような「色覚外来」を設置している病院は、全国に数か所しかありません。
1種類の仮性同色表による検査をフェイルしただけのひとは、「色覚異常の疑いあり」といった内容の診断結果になるでしょう。色覚異常の「疑い」の場合、精密検査をしたら色覚異常ではなかったということもあり得ます。
で、「自分の感じている色彩が他人の感覚に等しいと言えるのか?」という素朴な疑問ですけれども、正常色覚の人同士であったとしても、同じ色彩を見ているとは言い切れません。加齢による色覚の衰退・ニコチン中毒や成人病での色覚の変化・脳の機能による色知覚の変化など、いろいろな研究報告があります。厳密に計測すると、左右の目でさえわずかな違いが発見されるひともいらっしゃいます。ですので、「自分の見ている色が他人と等しい」と断言することはできません。
ですが、歴然とした程度の差が存在するのです。正常色覚者の色覚特性のばらつき(個体差)のなかに、先天色覚異常の人の色覚特性を含めることはできないようです。
私は、自分の色覚を調べるときに脳波をとり、それを数値化したものを見たことがあるのですが、ある特定の色彩については、まるで眠っているかのように脳が閉ざされていました。同じ実験で正常者のグラフとくらべた時、あまりの違いに絶句してしまったことがあります。
ではなぜ、先天色覚異常の人にも「色がわかる」と言えるのでしょうか?
それについては、これから詳しく説明していきます。