「先天色覚異常」をとりまく社会問題の背景について
以下、日本医学会に定める正式な診断名を用いて説明します。 また、以下の解説に用いている診断名は、日本学術振興会の定める正式な学術用語でもあります。 近年、「C型・P型・D型・T型」などといった学術的根拠のない造語の使用を強要し、「◯◯ユニバーサルデザイン認証」とやらを押し売りする、悪質な商業行為が目立つようになってきています。 この手の商活動には、色彩や色覚の “研究者” を自称する大学教員なども(利益相反を明示せずに)加わっており、そういった者の語る「ニセ科学」に騙される被害が、頻繁に発生しています。 行政機関や有名な企業も多数騙されており、そのため、色覚に関する誤った知見、すなわち当事者に被害を及ぼす「風評」が蔓延していている様子が見受けられます。 「P型・D型」などの造語の使用者は、“金儲け” を目的とし、ときには当事者という立場を悪用し、被害者ぶって、平気で嘘をつきます。 「P型・D型」などの造語と「認証」マークは、“嘘つき当事者” の目印です。 騙されませんよう、どうかお気をつけください。
「色覚異常」とは、眼から脳に至るヒトの色覚の “仕組み” すなわちメカニズムのどこかがうまく機能していないことを指す言葉です。 一方「色覚障害」とは、色覚のインペアメント(機能障害)を指す言葉で、色覚のメカニズムに関する議論を保留するときに用いる言葉です。
色覚異常は、「後天色覚異常」と「先天色覚異常」に分かれます。 先に後天色覚異常について説明します。
「後天色覚異常」とは、まず原因となる疾患があって、その一つの症状として現れる色覚異常を指します。 日本国内における代表的な原因疾患は、白内障(約1400万人)、緑内障(約390万人)、糖尿病網膜症(約300万人)、網膜色素変性症(約1.5万〜3万人)など、さまざまです(カッコ内は色覚障害を伴うとされる人口の推計値)。 後天色覚異常では、色覚だけでなく、視力や視野などの視機能にも影響が出るケースが多いとされています。 疾患の程度によって色覚異常の程度も変化し、左右差が生じることも多いため、色覚障害を自覚できる場合が多いと言われています。 なお、原因疾患自体が治療対象となるため、色覚障害だけが話題にされることはあまりありません。
「先天色覚異常」とは、色覚のメカニズムが生まれつきうまく機能していないことを指します。 先天色覚異常は、異常3色覚・2色覚・1色覚に分類されます(以前は、それぞれ、色弱・色盲・全色盲と呼ばれていましたが、一般に誤解が生じるとして、2005年に医学用語から削除されました)。 日本では、男性約4.50%、女性約0.156%、男女合わせて約43人にひとりの割合で遺伝的に発生し、全国に約290万人と推定されています。 しかし、そのすべての人に色彩の識別や弁別に関するトラブルが発生していると考えるのは重大な誤りです。 それよりも、もっと大きな問題があるのです。
日本列島には、遺伝に関して潔癖さを求めすぎる気質があり、古くから、先天色覚異常の問題はタブー視される傾向にありました。 婚姻・出産・育児など家庭環境や、教育環境・労働環境などにおける不都合な待遇を避けるため、この遺伝の当事者たちは、やむをえず、身上を隠しながら生活することが多くなっています。 しかし、そのためにかえって当事者たちは孤立し、情報不足は加速し、余計に不安を募らせることとなってもいます。
近年、進学・就職・資格取得などの機会における制限(欠格条項)は、以前と比べて大きく緩和されてきています。 しかしながら、依然として一部の進路では不条理な欠格条項が残っているのも事実です。 その一方で、色の見分けのつきにくい人にとって困難な労働内容であるにも関わらず、それを公にすると「差別」になるという思い込みから、事業者が欠格条項の設定を隠蔽しようとし、求人トラブルが生じてきてもいます。「差別をなくそう」という日本社会全体の動きと反比例するかのように、先天色覚異常をとりまく状況は、より複雑なものになってきているように思われます。
身の回りを見渡すと、カラーLED(発光ダイオード)の普及や、カラー印刷・カラーコピーの低価格化、インターネットの一般化などが主な要因となり、色彩による情報伝達は過剰を極めています。 それに伴い、色覚障害を伴う者にとって難解な配色を用いた公共サイン・印刷物・ウェブサイトなどはますます増え続けています。 それらはほんのちょっとの工夫を施すだけで改善されるものであるにも関わらず、問題が軽視されたり、逆にあたかも大問題であるかのように大袈裟に誇張されたり、あるいは他のインペアメントと混同されて混乱が発生してもいます。 近年、色彩・配色を改善することによって色覚異常の問題がすべて解決すると考える傾向が大きくなっているようですが、そういった思考では、私たち当事者の “人生” は改善されません。
また、いわゆる「バリアフリー」や「ユニバーサルデザイン」と呼ばれる社会動向において、先天色覚異常の当事者をターゲットにしたビジネスが、他の事情をもった当事者の方々(たとえば、いわゆるロービジョンの当事者の方々など)への対応よりも優先されているような社会現象を目の当たりにすることも多くなってきています。 これは、「障害」をビジネスの道具にしている人々が、「障害」のマーケットを故意に操作した結果の現象です。 この現象によって、先天色覚異常の当事者は、「障害」のマーケットをめぐる “パイの奪い合い” や “イス取りゲーム” に、無理矢理に、参加させられています。 これは、当事者にとって、非常に不本意な現象です。 いまこそ、冷静かつ客観的な態度が求められています。